生命を創造した男−アンドリュー・クロスのアカリダニ

 
 

Andrew Crosse

Acarus Galvanicus

 アンドリュー・クロス(Andrew Crosse 1784-1855)はマッド・サイエンティストとしてフランケンシュタイン博士のモデルとなったが、彼が生命を創造したのは『フランケンシュタイン』が書かれてからおよそ20年後のことである。彼はどこか空想的な人物であり、ひとり実験室を持った田舎の家で暮らしていた。研究室には避雷針に繋がったワイヤーが引かれ、放電の実験を行っていた。クロスは科学的方法論を支持し、結論を出す時には細心の注意を払った。彼の注意深い実験が奇異な幻を生み出したのは、訓練されていない思考というよりも、個人実験室ゆえの罠である。
 一体何が起こったのか?何年もの間電気現象実験していたクロスは1836年のある日、電流が結晶形成に与える影響を調べるため行っていた化学薬品の皿をのぞき込み、皿の中に結晶ではなく刺毛と尾を持ち、直立している完全な昆虫の姿を見た。それは「microscopic porcupine」に似ていた。ほかの昆虫はそれに結合し、2日後には自身の足で動き、それぞれ分離し、皿のなかで自由に動き回った。「私は、それは小さな驚きではなかった、と言わなくてはいけない。」とクロスは述べている。何百もの生物が数週間後には現れ、それに引き続き装置が載っていた台が似た昆虫に覆い尽くされるほど大量発生し、物陰に隠れてすべての場所で確認できた。それは肉眼で見ることができて、素早く這って場所を移動した。クロスはそれをアカルス属と特定したが、既知か新種かは分からなかった。
 初め彼はこの出来事を数百人の前で触れただけであったが、噂は回り新聞が嗅ぎ付けるまでには長くかからなかった。「驚くべき発見」の見出しで記者が扇情的に報じ、生物をAcarus galvanicusと名付けた。話はイングランド中そしてヨーロッパにも伝わり、驚く出来事を信じやすい人たちは満足し、大勢からは皮肉と、喜ばしくない攻撃者を生んだ。電気が昆虫を創造したという考えは多くの宗教団体の人々を混乱させ、クロスは神の役割である創造を侵害したと激しい非難にあった。彼は暴力の脅迫にも見舞われた。地元の農民は小麦の枯葉病も彼のせいにし、悪魔払いの儀式を近くの丘で行った。
 現在では多くの作家が真実はおそらくホコリダニかコナダニが液体にまぎれ込んだものと考えている。クロスは注意深く行ったが、対照条件はなかったし、汚染も容易であったに違いない。そして世界へ逃げ出したAcariは今はどこにも見ることはできない。
 −FT139