これは "On the lunar calendar of Tablet Mamari" (Journal de la Societe des Oceanistes, Paris. Vol. 91, No.2)を要約・改変したものである。
概略
トーマス・バーセルは"Grundlagen zur Entzifferung der Osterinselschrift"の中で月のカレンダー(太陰暦カレンダー)の全ての特徴を備えていた象形文字のシーケンス(連続する並び)を特定した。このシーケンスはバーセルの命名方ではタブレットC、一般的には「Mamari」と呼ばれているタブレットのAサイドの6行目の終わりの方で始まる。そこには数種の繰り返される記号があり、次のように色分けされる。
残りの黒の記号は現地の月齢カレンダーの夜を表し、Thomson, Englert, and Metrauxの3人が独立して集めた3つのバージョンが存在する。それら3つのバージョンはほとんど同じであるが、以下に述べる部分が異なっている。
太陰月は29.52日である。太陰暦カレンダーでは月齢に正確であるようにひと月が29日と30日のものを交代させなくてはならない。これには月齢の詳しい観察が必要であり、基本となる短いものに必要とあらばもう一夜余計に加えなければならない。
イースターの古代太陰暦は二十八夜からできていたと思われる。必要ならばそれに満月の少し前に一夜、満月後の新月の直前に一夜を加えていた。
夜の記号
黒く塗ったところは1から30まで数字をつけた。
2. 月が微かに見えてくる、新月の後の第一夜。ThomsonはOari, MetrauxはAriと記載。このariという単語はおそらくハワイ語の「ali = 白、明瞭、青白い」と同系統のものであろう。この三日月はやじりを持った紐の輪らしきものが付属している。Routledgeは「毎年ロンゴロンゴの男性たちはAnakenaで大集会を開いた...。彼らは‘heu-heu(てっぺんに羽毛の着いた棒)’を持ってきて、pua(植物)をそれに結び、そして棒を地面に突き立てた。Te Haha(彼女に情報を提供した現地人)と彼の仲間は村はずれに立ち、そして彼と他の若者はmaru(白い羽毛の紐を棒に結びつけたもの)を手に持った....。その大集会に加えて新月及び最後の四半期に小さな集会があって、ロンゴロンゴ人はAnakenaに集まった。」と報告している。とげのある輪はこれらの儀式で使われた白い羽の紐を表すのであろうか?よく使われる「新月」というものはしばしば月が再び現れる夜という意味で使われる。(注:本来は月が全て隠れている状態。)だからRoutledgeや彼女への情報を提供した人が、Ataという新月の状態の代わりにAriという新月の後の第一夜を意味した事も大いに考えられる。
3-8. 6つ連続する三日月。象形文字にはなにも付属しているものはない。Thomson, EnglertそしてMetrauxは6つ名前のない夜を報告している。:Kokore tahi, Kokore rua, Kokore toru, Kokore haa, Kokore rima, Kokore onoの6つである。「Tahi, rua, toru, ... ono」は1〜6までの数字であり、「kokore」はハワイ語の「'a'ole = no」やタヒチ語の「'aore = there is/are not」と同系統のものであり、従ってここでのその意味はおそらく「特別(名前は)ない」となる。
9. Thomson, Englert, MetrauxはともにMaharuと記載。
10. ThomsonとEnglertはOhua, MetrauxはHuaと記載。「Hua」というのはポリネシアの言葉で様々な意味を持ち、「果物、よく実る」または「外陰、陰嚢、ふくらみ」である。一緒にある記号はとげのある果実もしくは陰嚢を表しているに違いない。
11. Thomson, EnglertはOtua, MetrauxはAtua(神)と記載。一緒にある記号はおそらくこの世の支配者や天空の人々が着ている羽毛の外套。三日月はふくらんでいて、妊娠しているかのよう。この夜はThomsonやMetrauxが記載し、EnglertのリストにはないHotuに続くものである。この「Hotu」というのはタヒチ語で「果実をつける」という意味であって、必要に応じて満月前に余分に一夜加えられたものである可能性が最も高い。
12. Thomson, Englert, MetrauxはともにMaureと記載。付加物はおそらく音を表している。動物のペニスを表していることは信頼できる。(例えばイルカの)音声上「Maure」は「ma = with, ure = penis」である。
13. Thomson, Englert, MetrauxはともにIna-iraと記載。
14. Thomson, Englert, MetrauxはともにRakauと記載。この夜は満月の直前であり、三日月は満ちている。
15. Thomson, EnglertはOmotohi, MetrauxはMotohiと記載。満月である。記号は「月の料理人」の絵であり、ポリネシア、ほとんどのメラネシアの神話に共通している。3つの石はポリネシアのかまどの石(umu)である。横向きで座っている小男はコックである。
16-20. 5つの三日月の連続。これが第二の無名の夜Kokore tahi, Kokore rua, ... Kokore rimaであり、Thomson, Englert, Metrauxのリストにある満月のすぐ後に続く夜である。
21. Thomson, Englert, MetrauxはTapumeと記載。
22. Thomson, Englert, MetrauxはMatuaと記載。
23. Thomson, EnglertはOrongo, MetrauxはRongoと記載。最後の四半期である。トゲのある紐に注目しなさい。Routledgeは月の最後の四半期にも同様に儀式が行われ、そこでは白い羽毛の紐が使われたということである。
24. Thomson, EnglertはOrongo taane, MetrauxはRongo taneと記載。三日月は「taha」とよばれるグンカンドリと一緒である。最初の音節はおそらく発音の「ta[ne]」と使われたのであろう。
25. Thomson, Englert, MetrauxはMauri nuiと記載。
26. Thomson, MetrauxはMauri kero, EnglertはMauri karoと記載。
27. Thomson, EnglertはOmutu, MetrauxはMutuと記載。
28. ThomsonはTueo, Englert, MetrauxはTireoと記載。「Tueo」は「Tireo」のタイプミス。
29 and 30. これらはおそらくHotuとHiroという必要に応じて決まっている二十八夜に加えられた夜であろう。ThomsonとMetrauxによれば、Hotuは11と12夜(AtuaとMaure)の間に挿入された。EnglertによるとHiroは一夜(新月)のすぐ後に挿入された。Metrauxによると新月の直前である。
タイプBの絵文字(緑)それらの意味もまた分かっていない。しかし満月前、つまり月が満ちているときのグループでは魚は頭が上である。そのあとで月が欠けているときには同じ魚が頭を下にしている。したがって意味としてはおそらく「満ちる」や「欠ける」のようなことを示しているのであろう。
タイプCの絵文字(赤)意味は分かっていない。初めのひとつは亀(「honu」)のようであり、おそらくこれは「Hotu」の音声上の近似であろう。二番目は二人の人間が背中合わせであり、これは「Hiro」の音声上の近似であろう。:「he rua = two」しかしこれは音声原理に基づかない単なる推測である。
- Jacques Guy